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2006.8.19
連続小説
「GAMER 〜NAS芹沢物語〜」

(NAS芹沢@大阪PalmIII)




第24回「情熱の工房 ゲームを遊ばないゲーマー」

喫茶『GAMER』に定休日は無い。
というわけで、お店の看板娘である水咲あかねには当然、休みなどない。
しかし、この日は違っていた。

あかね:やったーーーー!

あかねは楽しそうに叫んだ。
珍しく、妹の水咲愛がお店を番してくれるというのである。
久しぶりの自由を、あかねは得たのだ。

水咲家の中で、愛は最も『GAMER』に近づきたがらない人物である。
その理由は、なるも詳しくは聞いていないが遠い昔に無くなった彼女達の母親に関係があるらしい。
まあとにかく、これであかねは一日中、自由である。

あかね:で、どこに連れて行ってくれるの?

わくわくした瞳で、あかねはなるに聞いた。

なる:・・・・・・・・・ゲーセン。
あかね:・・・・・・。

本当は聞くまでも無いのだ。
なるの答えはいつも同じだった。

なる:ま、待ってくれ、話せばわかる、話せば。

あかねの怒りの乱舞攻撃を受けると直感したなるは、あかねを落ち着かせようとした。

あかね:いいわよ。ゲーセンで。
なる:えっ?
あかね:今日は久しぶりのお休みだもの。機嫌はものすごく、いいわよ。

あかねはそう言って笑っていた。
たしかに、いつものあかねとは違う。

なる:じゃあ今日は、ゲーセンはゲーセンでも、特別なゲーセンに行こうかな。
あかね:特別なゲーセン?

そう言うと、なるはあかねを連れて電車の駅へと向かった。
あかねはなるについて行った。

あかね:普段は電車代も惜しんでゲームしてるのに、今日は本当に特別な所に行くのね。楽しみ。

電車は郊外に向かって走っていた。
しばらくして、途中のとある駅で二人は降りた。

あかね:ここって、大学があるところじゃない?
なる:その通り。大学が近くにある所は、ゲーセンもたくさんあるんだよ。
あかね:そういうことか。なる、まさか、行きたい大学を周りにあるゲーセンで選ぼうとしているんじゃ、ないわよね?
なる:バレたか。
あかね:・・・・・・。

なるとあかねは駅から大学に向かってしばらく歩いた後、横道に入っていった。

あかね:こんなところに、たくさんゲーセンが!

なるとあかねが入った通りには、ゲーセンが軒を連ねていた。

なる:このあたりの店は、面白いところがいっぱいあるよ。店ごとに特徴もあるしね。

外見こそ似たようなゲーセンが並んでいたが、中はまさに店主の趣味趣向が現れていた。
とにかく値段を安くしようとすべて10円で遊ばせている店、最新機種をたくさん入れることに命をかけている店、人間同士の対戦重視の店、などなど。
どれも個性的で魅力的な店ばかりであった。

あかね:うわー楽しい〜。

あかねはまるで遊園地のアトラクションを見て回るかのように、ゲーセンを見て回った。

なる:ではそろそろ、今日行きたかったお店に行こうか。
あかね:えっ、行きたかったゲーセンって、今までのお店とは違うの?

なるは一つの店に入っていった。
そのゲーセンは、外見はかなり古びた作りだった。

あかね:ええーこんなところに来たかったの?

あかねは不思議そうな顔をしながら、なるについて中に入った。

あかね:あっ。

一目見て、あかねにもわかった。
そのお店は、他の店とは一線を画(かく)していた。

あかね:懐かしい〜。

その店には、テーブル型の筐体が数十台並んでいた。
それだけなら他の店とは変わらない。
動いているゲームが、すべて5年から10年以上前のゲームばかりだったのだ。

あかね:えーこのゲームって、私が小学生の時にあったゲームよね、すごい、まだ動いてる!

あかねは歓声を上げながら、懐かしそうに全ての台を見て回った。
今ではどの店でも見かけなくなった、特殊なレバーやボタンを使うゲームも、この店には当たり前のように置いてあった。

あかね:えーこれ、私が幼稚園に行ってる頃のゲームじゃない?こんなゲームがいまだに遊べるなんて・・・すごい!

あかねは感極まったのか、涙ぐんでいた。

なる:そんなに喜んでくれると、連れてきた僕としてもうれしいね。
あかね:なるのおかげで、こんな懐かしいゲームたちにまた会えるなんて。ありがとう。
なる:いや、お礼なら、あそこにいる人に言うべきだよ。あかね。

なるが指差す先、ゲーセンの奥にある部屋のドアは、木製で取っ手が壊れかけていた。

あかね:あの部屋は?
なる:もちろん、このお店のオーナーの部屋だよ。行こう。

なるはあかねと一緒に、「立ち入り禁止」と書いてある部屋に入っていった。

なる:こんにちは。
男:おう、なるか。久しぶり!

部屋の中には、作業服を着て半田ごてを持った、ひげが特徴的な男が作業台の前にある金属製の椅子に座っていた。
ゲーム基盤を修理しているようである。

なる:おっちゃん、今日も修理?
男:ああ、動いてたゲームが2台ほど突然動かなくなったんだ。
あかね:これ、おじさんが全部修理したりしてるんですか?

部屋の中に置いてある大量のゲーム基盤を見ながらあかねは聞いた。

男:ああ、そうだよ。ゲームを作ったメーカーにも修理できる人がいなくなっているゲームが多いからね。直し方を自分で調べて修理しているんだよ。
あかね:すごい。
なる:おっちゃんのおかげで、僕らはこんな、もう他のお店には無いようなゲームが楽しめるのさ。すごいだろ?

なるは、先ほどからあかねが置いてあるゲームに感動していることを、おっちゃんに伝えた。

男:うれしいねえ。こんなに可愛い女の子にそこまで言ってもらえると特に。

男は半田ごてを動かしながら、笑顔でそう言った。

あかね:おじさんはゲーマーなんですか?
男:昔はゲーマーだったけど、今はこっちの方が面白くてね。
なる:おっちゃんは、もう説明書や設計図が残っていないようなゲーム基盤も、作りや配線を自分で調べて直しているんだよ。ゲームを作ったメーカー自体が無くなっていることもあるし、大変なんだよ。
あかね:へえー。自分がゲームをしなくても、ゲーマーのためになることをするって、素敵なことね。

なるは、この時あかねが言ったこの言葉を今でも忘れていない。
もし自分がゲーマーをやめるときが来ても、その後もゲーマーのためになるような活動ができれば幸せだなと、なるは思った。
そしてもう一つ、メーカーさえ投げ出すようなことでさえ、情熱があれば成し遂げられる、信じれば夢はかなうということ。

あかね:うわーあれも遊びたい。このゲームも懐かしい。

あかねはその後も店に置いてあるゲームを遊びまくっていた。
今日ばかりは、なるも遊ぶ側ではなく見る側だった。

なる:(相当うれしかったみたいだな)

しばらくすると、大学生と思われる若者がたくさん店にやってきた。
いわゆる常連の人たちである。

大学生:へー珍しい、こんな店に可愛い女の子が来てるぞ。

あっという間に、あかねはお店のアイドルと化していた。
こんな店にやってくる女の子は当時少なかったのである。

男:いやーあかねちゃんに毎日来てもらったほうが、新しいゲームを入れるよりも売り上げが伸びそうだ。
あかね:私でよかったら、毎日来るわよ〜。
なる:『GAMER』はどうするんだよ?
あかね:愛にまかせとけば、いいじゃない。
なる:だめだこりゃ。

こんな感じで、楽しい休日は終わったのである。
そして帰りの電車の中。

なる:なあ、あかね。もし僕がゲーマーをやめることがあったとき、それでもあんな風にゲームに関わった仕事ができれば幸せだと思う。

あかねはなるを見つめて言った。

あかね:そうね。でも、なるは絶対おじいちゃんになってもゲーマーのままだと思うわ。
なる:えっ、そ、そうかな?
あかね:きっとそうよ。そして、私もおばあちゃんゲーマーとして活躍してるわよ、きっと。

二人はその頃の自分たちの姿を想像して、大笑いしながら帰ったのだった。

・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

その頃、喫茶『GAMER』の店の前に一人の少女が立っていた。
少女の黒くて長い髪が風になびく。

少女:ここが、お父様の思い出の場所・・・。

しばらく平穏だった生活は、この来客を機に一気に動き始めようとしていたのであった。


つづく


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